世界有数の金属加工産地である新潟県燕市で、「鎚起銅器(ついきどうき)」と呼ばれる伝統工芸品を二百年以上にわたり作り続けている玉川堂(ぎょくせんどう)。冷たい一枚の銅板が槌(つち)で打ち起こされ、道具として生まれ変わるその瞬間から、美しさと味わい深さが増していく日々の時間が流れ始める。
2024年 02月27日
動画ディレクション:TISCH(MARE Inc.) 動画制作、撮影:仲谷譲 インタビュー、文:倉持佑次
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新潟県の無形文化財にも指定された鎚起銅器とは、一枚の銅板を槌でひたすら叩いて銅器を作る伝統的な加工手法のひとつだ。職人たちは欅でできた盤の上に腰をかけ、鳥口(とりくち)と呼ばれる当て金を使いながら、銅板を木槌や金鎚で何度も何度も打つことで形を作り上げていく。ひとつの作品を手がける過程で銅板を叩く回数は万を超え、その内の一回たりとも無駄なものはないのだという。
七代目の玉川基行は言う。「一枚の銅板を叩くと伸びるイメージがありますが、逆に叩きながら縮めていくというのが鎚起銅器の技術です。表面に付く槌目も、手作りらしい鎚起銅器のよさと言えます。銅器は使えば使うほど色の深みが増し、時を経ることで味わいを増すもの。私たちは銅を叩いて命を産み、その命をお客様に渡して、育んでもらうつもりで作っています。『打つ、時を打つ。』というコーポレートスローガンには、お客様が時を刻むという意味合いも込められているのです」
やかんや急須、酒器、花器に至るまで、玉川堂が作り上げる職人技の結晶は、最新のテクノロジーが搭載された“道具”とは趣を異にするものだ。しかしそんなものこそが、私たちの日々の生活に彩りを添えてくれることを、玉川堂の鎚起銅器は教えてくれる。ともに時を打つという喜びとともに――。
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