時計ジャーナリストの広田雅将、柴田充、篠田哲生、 オーデマ ピゲのファッション企画を担当するスタイリストの白井艶美、武内雅英、菊池陽之介が2021年新作モデルを総括。業界のプロが選んだ2021年のAPベストウォッチとは。
2021年 12月27日
Photos:Koutarou Washizaki - Words :Masashi Takamura
広田雅将/時計ジャーナリスト
本メディアでもお馴染みの腕時計専門誌「クロノス日本版」編集長。各媒体への寄稿のほか、講演会やイベントでも活躍。時計に対する知識は業界イチと名高く、周囲からは“ハカセ”の愛称でも親しまれる。近年の時計界については「過去の面白い試みが未来に日の目を見る。特に文字盤への試みが面白いメーカーは例外なく好調」との卓見も。
柴田充/時計ジャーナリスト
時計のみならず、ファッション、映画などへの造詣も深いベテラン。20年ほど前、取材先のミラノで目にした「ロイヤル オーク」着用のファッショニスタたちに衝撃を受けたそう。現在は、「三大高級時計のなかでも、最も迅速に世代交代に対応しており、ポートフォリオの選択と集中が顕著。デジタルによる顧客とのダイレクトな訴求も」と注目中。
篠田哲生/時計ジャーナリスト
時計学校でその仕組みから学んだエピソードも有名。複数所有する高級時計のなかでも「ロイヤル オーク オートマティック」を主に愛用しながら、良い時計のベンチマークとは何か日々模索する。ブランドに関しては、「何をやってくるか楽しみな存在。CEOのベナミアスさんのキャラクターを含めて、予想の半歩先を提案してくる点が見逃せない」としている。
白井艶美/スタイリスト
洗練された配色や小物使いが光る、モードでシンプルなスタイリングで人気。広告、女優のスタイリングなどで活躍する。本人は、多彩なアクセサリーを使って楽しむのがお好みという。「オーデマ ピゲを選ぶ女性は、そのストーリーにまで思いを致せる知性が感じられますね。また、時計を軸にしてスタイリングを構築できる存在感も魅力」
武内雅英/スタイリスト
クラシックやドレス服に対する豊富な知識を活かして、モードからカジュアルまで幅広いスタイリングを実践。腕時計に関しても思い入れが強く、コーデのポイントとしても重視。「40代半ばに到達した今、オーデマ ピゲのように主張がありながらも、品があるブランドが似合う年頃になったと感じます」と、改めてその世界観に引き込まれているという。
菊池陽之介/スタイリスト
アイテムの生まれた背景やストーリーに思いを寄せながら、巧みなシルエットメイクで世界観を表現。媒体の時計企画におけるスタイリングも多数。「新たなものを生み出す労力は生半可ではないでしょう。生まれた時は異端でも、それがいつしか人々の憧れになる。そんな姿を見てきました。変わることを恐れぬ姿勢でファンを楽しませ続けてください」
2021年にリリースされた新作モデルのなかでも、選りすぐりの10本をラインアップ。この中から時計ジャーナリストとスタイリストがベストな1本をチョイス。
1 - CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ
スモークグレーダイヤルにブラックセラミックのミドルケースがマッチ。18Kピンクゴールドのケースおよびパーツと相まって、艶やかさを醸し出す。
2 - CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック
サンバースト装飾のスモークブルーがダイヤルいっぱいに堪能できる3針モデル。18Kホワイトゴールドの輝きと相まって海面にきらめく太陽光線のよう。
3 - ロイヤル オーク オートマティック
34㎜径のレディースサイズとして加わったセラミックケースおよびブレスレットが魅力。ヘアラインとポリッシュの仕上げはジュエリーさながら。
4 - ロイヤル オーク フロステッドゴールド
鍛金技法が施された18Kホワイトゴールドのケースとブレスレットが、光を反射するさまは魅惑的。グランドタペストリー装飾のライトブルーダイヤルが柔和な表情に。
5 - ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
フライバッククロノグラフを搭載した43㎜ケースがマッシブな印象。ブラックセラミックと18Kピンクゴールドの配色が、フォーマル感も加えてくれる。
6 - ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
スモークライトブラウンのダイヤルと同系色のラバーストラップでファッションとの好相性を予感させるデザイン。ブラックセラミックベゼルが引き締め役に。
7 - ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
1993年に登場した初代「ロイヤル オーク オフショア」へのオマージュとして加えたモデル。ブルーダイヤルはステンレススティールケースを採用。
8 - ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
縦三つ目のサブダイヤルが新鮮な本モデル。グレーダイヤル版は、ケースとブレスレットにチタンを採用し、素材使いが進化した現代の時計事情を色濃く反映する。
9 - ロイヤル オーク オフショア ダイバー
限定モデルは、世界300本の生産。通常モデルとの違いは、18Kホワイトゴールドケースにセラミックベゼルを装着している点。ラグジュアリー感を高めている。
10 - ロイヤル オーク オフショア ダイバー
最新のキャリバー4308を搭載し、300m防水を実現した本格ダイバーズ最新版の通常モデル。インターチェンジャブルのストラップで使い勝手も向上。
広田 雅将
「真正面から見るとシンプルなラウンドウォッチ。しかし側面から見るとスポーツウォッチ以上に立体的な造形を持つ。このアンビバレントな性質をひとつにまとめ上げることができたのは、様々な型破りを続けてきたオーデマ ピゲならでは。私は、“CODE 11.59”を大変好みますが、一本だけ挙げるならば、新しい自社製ムーブメントを載せた本作です。大きなテンプと長いパワーリザーブを備えつつ、巻き上げ効率の高い自動巻き機構に、フライバックに特化したクロノグラフ機構を搭載。スポーツウォッチに載せてもおかしくないムーブメントを、まずは“CODE 11.59”に載せたのもオーデマ ピゲらしい“ひねくれぶり”。それを破綻させない点もまた見事です」
柴田 充
「サンバースト模様のスモークブルーラッカーダイヤルの美しさ。これは、重ねたラッカーの深みのある色合いが高く評価される“CODE 11.59”のコレクションでも傑出しています。18Kホワイトゴールドのケースとファブリック調ラバーストラップとのコンビネーションからも、高いセンスが感じられます。本コレクションは、今やクリエイティブのキャンバスと位置づけられていると見ていますが、こうしたデザインや技法などを見るにつけ、あらゆる実験的な革新性が伝わってきますね」
篠田 哲生
「実は、一世代の前のムーブメントが搭載されていた“オフショア クロノグラフ”の購入を検討していました。モジュール式クロノグラフムーブメント特有の奥まった位置にあるカレンダー表示が個人的な萌えポイントだったんです。この新作は、新型ムーブメントを搭載したことで、”奥萌え“はなくなりましたが、原点モデルのスタイルがしっかり継承されていて、非常にうれしかったですね。しかも、ブレスレット&ストラップが手軽に変更可能になっており、使い勝手も向上している点にも新たな魅力を感じました」
白井 艶美
「表面加工が美しく、セラミックという素材がアクセサリーとしても成立することを感じさせる一本です。ピンクゴールドが随所にパーツ使いされているので、他のゴールドアクセサリーとの相性もぴったり。フォーマルからカジュアルまで汎用性が高いといえますね。もちろん、一本だけでも成立するアイコニックな八角形ベゼルの存在感は、34㎜のサイズでも申し分ないです。この腕時計を主役にスタイリングを考えるのも面白いと思います」
武内雅英
「いわゆる“オフショア”は、ボリュームがあるぶん、スタイリングの観点からだけなら少し難しさもあるんです。ともすると主張しすぎてしまう。それでも、このモデルが素敵だと感じたのは、柔らかなピンクゴールドの輝きとセラミックのマット感がもたらす上品なコントラストゆえ。ラバーストラップをアリゲーターに交換すれば、フォーマルにもカジュアルにもこなせます。この時計のおかげで、ゴールドウォッチが40代半ばの自分にも似合うようにも感じられました」
菊池陽之介
「以前より気になっていた“オフショア”の中でも、特にスタイリッシュさを感じたのが本作。ステンレススティールのケースにラバーストラップというスポーティな雰囲気を、ブラックセラミックで引き締めた素材使いが見事。何より、ほかの高級時計ではあまり見られないミリタリーテイストの配色とボリュームのあるデザインは、カジュアルスタイルによく溶け込みます。ブラックからベージュにグラデーションするメガタペストリーダイヤルは、都会だけでなく自然にも馴染むと思います」
番外編として2021年にリリースされた複雑機構モデル3本を時計ジャーナリストが解説。オーデマ ピゲの真骨頂ともいうべきコンプリモデルの魅力に迫る。
HIROTA’S COMMENT
広田雅将/時計ジャーナリスト
「輪列のコンパクトなトゥールビヨンは、そもそもオープンワーク向き。これは、ムーブメントを極限まで肉抜きした試みです。オーデマ ピゲらしいのは、面取りのいたるところに設けられた“出角”。切り込むようなエッジは、手作業でしか施せないものです。モダンな造型を古典的な手法で仕上げる。ブランドのあり方を象徴するモデルのひとつ」
SHIBATA’S COMMENT
柴田充/時計ジャーナリスト
「まるで現代のウォッチメイキングのショーケースのようなフルコレクションの中にあって、とりわけ先鋭的。トゥールビヨンとスケルトンダイヤルという古典的な機構をコンテンポラリーに昇華するとともに、独創的なケースデザインがさらに際立ちました。結果、未来感に溢れた佇まいに」
SHINODA’S COMMENT
篠田哲生/時計ジャーナリスト
「美観や表現力に優れるトゥールビヨンと、専用設計で美しく演出されたオープンワークの技法が融合した、好みのスタイル。すべてが曲線で構成された本作のキャリバーには、息をのむほどの美しさがある。しかもミドルケースはピンクゴールド製というコンビ使い。オーデマ ピゲの創造性をとことん楽しめる時計です」
HIROTA’S COMMENT
広田雅将/時計ジャーナリスト
「ロイヤル オーク“ジャンボ”にラッカー文字盤を組み合わせたユニークなモデル。オーデマ ピゲは長年ラッカー仕上げの文字盤から距離を置いてきたが、“CODE 11.59”で大々的に採用。そしてこの定番へ。ギヨシェの溝がラッカーで埋まらないよう、あえてのフラットな仕上げだが、グラデーションを施すことで間延びさせない。そのまとまりは非凡です」
SHIBATA’S COMMENT
柴田充/時計ジャーナリスト
「来年の誕生50周年に向け、生産を終える初代“ジャンボ”。その極薄を支え、“ロイヤル オーク”以外にもコンプリケーションのベースとして活躍した名作キャリバー2121もこれが見納め。プラチナのケース&ブレスも、その有終の美を飾るにふさわしいといえます」
SHINODA’S COMMENT
篠田哲生/時計ジャーナリスト
「個人的には、39㎜径こそ正解だと思っている“ロイヤル オーク”。現行では“エクストラシン”のみが該当します。しかも、1972年モデルを彷彿とさせる2針の本作はまさにツボ。なんとも艶めかしいグリーンのグラデーションダイヤルに、プラチナのケース&ブレスレットというユニークな組み合わせの特別感は、ファンにとってもたまらないはず」
HIROTA’S COMMENT
広田雅将/時計ジャーナリスト
「おそらく、オーデマ ピゲのクロノグラフで最も複雑な設計のひとつ。スペースがないにもかかわらず、文字盤の2時位置には、なんと12時間積算計が。しかも、クラッチを持たない簡易型ではなく、往年の高級機よろしく、12時間積算計専用のクラッチを搭載。造型や仕上げ、ムーブメントの巧みな取り回しからは、熟練した手腕が感じられます」
SHIBATA’S COMMENT
柴田充/時計ジャーナリスト
「“オフショア”初のフライングトゥールビヨンのフライバック。“CODE 11.59”に搭載したキャリバーを刷新し、よりスポーティに。これを43㎜径のチタンケースに抑え、力強さを損なうことなく、フィット感と軽快感を両立。次世代の“ラグスポ”だと思わせます」
SHINODA’S COMMENT
篠田哲生/時計ジャーナリスト
「“オフショア”のマッシブな存在感とオーデマ ピゲらしい高度なメカニズムが巧みに融合。43㎜径のチタンケースで日常使いも可能なスペックにまとめている点もお見事。フライングトゥールビヨンが動作する美しい姿を愛でられるのは、愛好家にはうれしいでしょう」
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